スクールカウンセラーだより from 一心塾

スクールカウンセラーとして勤務している学校で発行している便りです。

トラウマを癒す

心の傷をいやす

スクールカウンセラー 土江正司

 心の傷は消えない、という歌の文句がありました。確かに心無い言葉やあまりにひどい出来事は忘れたくても忘れられないものです。思い出したくないのに、ふとした拍子に思い出しては最悪な気分になってしまいます。子どものときにいじめを受けたり、家族の何気ない言葉や態度の繰り返しに傷つけられ続けて、それからもう何十年もたつのに人に対する恐怖感が拭えない、簡単に人を信じられない、あるいは敵意が消えないという人がたくさんいます。

 心に傷を持つ人は、その傷に触れるような状況を自然に避けようとします。避けられないとパニックになったり、自己防衛のため攻撃的になったりします。傷を持っているために考え方や行動が歪められてしまうのです。傷を持っているために逆に人を傷つけ続けてしまう人も多くいます。

 心は目に見えないものなので、どんなに傷ついていても外側からはわかりません。実を言うと傷ついている本人も、その傷の程度がどれくらいなのかに気づいていないことが多いのです。そして自分自身の心の傷(トラウマ)についてきちんと自覚しないと、回復がとても遅れてしまいます。

例えば足を骨折すればしばらく入院して、松葉杖で歩けるようになったらリハビリして、その間いろんな人が心配してお見舞いに来たり励ましてくれたりします。身体のけがは目に見えるから自分でもいたわることができます。だから回復も早いのです。トラウマもきちんと自覚できれば、周囲の人に理解できるように伝えることもできます。自己理解、他者からの理解によってトラウマは身体の傷と同じように癒されていきます。

 トラウマの状態をきちんと把握できる人は、よほど心を感じ、考えてきた人です。おそらくその必要性のあった人です。しかし、できればどんな人でも簡単に心の状態が観察できる方法があるならそれは大いに役立つことでしょう。以下にその方法を二つご紹介します。

 一つは「心の天気」という方法です。今の心の状態をお天気で表現しようとすると、例えば「右の方に大きな黒い雲があるけど、左の方はだいたい晴れていて、太陽も輝いている」というふうに自分自身を観察した上で説明できることでしょう。黒い雲が何を表しているのか自分では何となくわかるはずです。そして「あのことをこんなふうに自分は感じているんだなあ」と気づくことでしょう。

 もう一つの方法は「桃イメージ法」です。桃はとっても柔らかくみずみずしいのですが、傷つきやすく、すぐに茶色くなってしまいます。自分の心を桃にたとえてみてください。あなたの桃の傷み具合はいかがでしょうか。7~8割茶色くなっていると答える人に私はよく出会います。傷だらけの自分の心を目の前に見て、初めて自分の心を癒すために涙を流す人もたくさんいます。こんなふうにイメージに置き換えることで心を見ることは簡単にできます。ぜひときどき自己チェックしたり、身近な人をチェックしてあげてください。それだけで癒される傷も多いのです。

身体がひどいケガをしたら医者にかかるはずです。ひどい恐怖心や敵意、混乱、無気力などトラウマの程度が重い場合はなるべく早いうちに心の専門家を訪ねる必要があります。また、手遅れになって後遺症が残っている状態をPTSDといいますが、それでも治療は可能です。爽やかないい天気の感じを心に持つことは可能なのです。